私は仕事以外で5万円以上の取引に携わった事がほとんどない。おそらく、8年くらい前に買った財布が一番高いかもしれない。
あとはバイト先の人を仲介に挟んで買ったバイクだ。(確か25万だったと思う。)
すでに成人していたが、ビッグスクターにカーステを搭載し好きな音楽を爆音で掛け自由を感じたいと思った私はバイト先の人がカスタムバイク好きだったこともあり、その人を通じですでにカーステ搭載済のバイクを購入する事にした。受け渡しの瞬間は今でも覚えている。
京王線橋本駅まで電車で行き、そのままバイクに跨り甲州街道をひたすら新宿方面に帰った。確か、レッチリのライブ音源を恥ずかしげもなく爆音で掛けて帰ったが傍からみたらいい歳してなんの仕事をしているか分からないやつが平日の昼間から爆音でビックスクーターで走っているのだから怪訝な目で見られてもおかしくはなかったのである。(女子高生に指をさされ笑われた。)
その後、長らくこのマグザムに乗る事になる。走行中にカバーが外れたり、すぐにバッテリーがダメになったりと散々だったがかなり行動範囲が広がったのも事実だ。
しかし、就職することになり週に1回乗るんだから乗らないんだかという状況になり売る事になったのだ。
今日は、私がバイクを売った時に感じたことはもしかすると不動産を売る人と同じなのではないか?という事について触れてみたいと思う。
バイクを下取り査定に出す
もしも私に友達がいれば、欲しいという奴を見つけてまぁまぁの金額で売れたかもなぁと思う事があるが、当然にそんな友達はおらず、皆それぞれの道へと進む中、例に洩れず疎遠になっていた。とにかく忙しいので下取り査定を依頼することになった。
査定サイトを使う
時間がない=めんどくさいのはいやだ と考えた私はバイクの下取り査定をネットで行った。いわゆる一括査定見積もりというやつだ。
個人情報と売りたいバイクの情報を入力後、とにかくメールと電話がバンバン来たのでびっくりしたのを覚えている。どれがどの業者かさっぱり分からなかったのとメモする癖がなかったので、随分とアポ取りに苦労した。(業者の方にはご迷惑をお掛けしました。)
なるべく一日の間に業者に集まって頂き査定してもらった。1社目の方が来てびっくりする事になる。
査定額に納得いかない
『買取価格は10万円です。』
信じられなかった。25万で買っているのだからせめて10万後半は欲しいと考えていたからだ。思わず業者さんに対して『嘘だねっ!』と言ってしまったくらいだ。
自分がこんなにも好きで乗っていた愛車がそんな値段なわけがない、安く買い叩こうと思っているのだなぁ~くらいに思ったのだ。
1社目の査定はテンションが上がらず、一旦帰ってもらう事になった。
査定額はだいたい同じ金額
その後、A社B社C社と来てもらったのだがやはり『だいたい10万円』がみなさんの回答だった。この辺りになると自分も結構冷静になっていたので、『そういうものなのか?』と感じつつ下取りは一旦保留にした。
後日、感じの良さそうな営業さんに頼んで11万ちょっとでバイクを引き取ってもらう事になった。
相場という概念を完全に無視していた
今思えば、私のマグザムは買取であれば10万前後が相場だったわけだ。当時は納得できないで数日考えてしまった。
何度も言うが友達が多ければ『15万で買うよ』とかそういう話もあったかもしれないがまず友達がいなかったのでその線は取れなかったし、時間かけてだらだら売るのも嫌だったので11万で取引され、しかもナイスな笑顔でいい対応してもらっただけ結果としては良かったのである。『もっと高く売れたでしょ?!』という意見は無用である。
結局、業者の人だってたいして整備されていない単車を整備しなおしてクレームにならんような商品にして再販するわけだし、その費用を勘案したって1台あたりの利益もそれほどでもないだろうと想像が及ぶのである。
普段取引していないから
例えば、私が普段からバイクの売り買いを何度もしていて利益を得ている、もしくは儲からないにしたってバイクが好きでしょうがない男だったらどうだろう?
このバイクはいくらくらいで売買できる。と分かるはずである。
つまり、普段から好きで、もしくは仕事で何台もバイクを見ているのだからわかるのである。むしろ分からない方がおかしいのだ。
裏を返せば、あまり売ったり買ったりしないものの相場などはよくわからないのである。
不動産の査定をするようになりわかったこと
前置きが随分と長くなってしまったが、時は現代に戻り、今私がやっている不動産のお仕事についてである。
基本的には売買仲介をしており、弊社の場合は売主側を担当する事が多い。つまり、不動産の価格を査定するのが仕事でもある。
不動産の査定をしている業者側として、自分のバイクを売った時の事を思い出したのである。
バイクと不動産
実は両者は似ていると思う。当たり前だが、取引事例で比較すればそこにはおのずと相場が現れるわけだ。特に住宅の場合は顕著である。
バイクだって取引されている事例があるわけでそれを参考にして下取り価格を出しているでしょう。不動産に置き換えて言えば、再販価格はこれくらいだから買取金額はこれくらいだと考える。
取引されている金額が上がっている場合においては今までの事例を無視した値付けも可能だし(リスクを取れる)、弱いエリアではそれなりに弱い金額が出るのである。
誰か買いたい人いませんか?
バイクの場合 『誰か買いたい人いませんか?』と自分で売りに出す事も可能だろう。
いまならメルカリやジモティーに出せばいい。(売れるかは別ですが)
また、友達が多いならそのネットワークを活かしたっていい。『バイク売りたいんだけど買いたい人いないかな?車種は〇〇で〇〇万希望』と友人ネットワークで拡散してもらえばいい。
同じ事が不動産でもあり得る。
例えば、土地案件をもってるブローカーなんかが『だれか買う業者知らない?』なんて概要書を持ち込んできたりする。業者間で『誰か買うエンド知らない?』なんて会話も日常茶飯事だ。
また、それほど多いわけではないが、『友達(知人)がこの土地欲しがってる』や『お隣が買うって言っている』などの案件を取り扱う事もあり、『売る前にもっと高く買いたい人いないかな?』なんて聞かれる事もある。概要を聞いて内心『高すぎ』と思う事もあれば『安いなぁ。。。』と思う事もある。
個人間で取引される場合、結構高値で取引されたり、不当に安い金額で取引される現場に出くわす事が多い。土地であればお隣さんにとっては需要があってもあるけど微妙な広さで用地として売買するにはどうにも処理できない場合だってあるのだ。
売れると思いますよという金額
バイクを売った際の話に戻るが、買取してもらったので確定的な金額が分かった。だが、もし買取でなければいくらで売れたかはよく分からないままだ。
不動産でも同じような事がよくある。
仲介業者に売却依頼する場合
不動産の場合、まず仲介金額を提示する事が多い。
つまり、『○○万円で売れると想定できる』数字をお伝えする。人によって異なるが数字に納得しない人もいる。バイクを売ろうとしていた私も納得しなかったのでよくわかる。
しかし、どう考えても売れない金額で売りたいという売主もいる。
査定したらキレられる
随分前だが、ある住宅を査定した時の事だ。某メーカーの分譲戸建という内容だった。
ただ、バス便である事、周囲に商業施設がない事等を勘案した査定金額を出したところ、その場で絶叫され『早く帰れ!』と言われた事がある。
その後、査定額3割増しで売りに出ていたが結局売れなかった。
確かに買った時の金額の半値ほどの価格を提示されて怒るというのも理解できなくはない。が、キレたところで買手がいなければどうしようもないのだ。
自分のモノは出来るだけ高く売りたい
このように思わない人はいない。よっぽど愛着がなかったり、すぐに現金が必要等の理由がない限りはほとんどの場合が出来るだけ高い金額で売りたいと思うものだ。バイクを売った時の私がそれそのものである。
不動産の取引に関して言えば、10万20万の話ではない。平気で1000万、2000万指す(値引き交渉する)なんてするわけだ。傍から見れば正気じゃないと思う。
ただ、思いのほか高く売れる事だってある。先の例のように隣地が高く買うなんて事もあれば、思わず高い買手が現れるなんてこともある。そもそも、かなり希少な立地の不動産であれば説明不要だ。
つまり、不動産屋とは売りに出す際に売れると思いますという金額の精度を限りなく高めて買う人を見つけてくる仕事だと思っている。高く売れるなら私だって高く売りたいのである。自分で仕入れた物件なんか絶対に高く売れないと嫌ですしね。それ故、データと勘を総動員して値付けするわけです。
他人事過ぎてもダメ、自分事過ぎてもダメ
とどのつまり、モノを売る際、特に買手が反復継続し類似情報にあたり最終判断を下すハードルの高い商品については価格付けが重要な点である。
不動産についても同様の事が言える。
特に仲介業者としてひと様の物件の価格査定においては他人事過ぎてもダメだし自分事過ぎてもダメというのが私の意見だ。
何を言っているのかといえば、客観性の話である。
例えば、相場が5000万の何かしらの不動産(住宅)があるとしよう。売主は相場はよくわからないけど5980万程度で売りたいと思っている。なぜ思うのかもいろいろな要因があるがどこかの不動産会社が適当に5890万くらいの査定書を作ってそれに目を通している設定にしよう。
近隣の相場を調べると同じような物件が5000万前後で成約している。物件については特段周辺成約事例よりも劣らずとも勝らないというも事にしよう。
逆に聞きたいのだが、どうやったらこの物件が5980万で売れるだろうか?設定はマンションでも、戸建でもなんでもいい。
まず、立地について考えたい。
特に希少性のあるエリア、つまり売り物件があまり出ないエリアについては売れるかもしれない。でもそうでない場合は?
もしくは担当する不動産業者の営業マンの営業力について語ろう。
営業マンが建売業者で、自社販売している場合ならなんとか自社物件の良さを語りクロージングするだろう。だが、仲介の場合は?
比較対象できる物件が仮に近隣で売りに出ているとして、その物件が悪い条件でなければそっちを買うだろう。買う人間のキモチになれば簡単にわかる事だ。
だが、売る立場になるとどうしてもこのことが分からない。先の述べたように『自分のモノはどうせなら高く売りたい』からだ。
謎価格で媒介を受けても誰も幸せにならない
いわゆる超高値査定の事を私は謎査定と呼んでいる。つまり相場から随分乖離している金額査定の事である。
査定において他社と競合する事はままある。というか大手とかち合うと負ける事が多い。
例えば、あなたが5社程度に査定依頼をするとだいたい似たような価格が出てくると思うのだが、そのうちの1社や2社は高値査定をしてくると思う。実は私も昔していた。理由は明白で、高く売ってくれるならそういう業者に頼みたいと思う人もいるからだ。
これには訳がある。
まず、媒介を取るのが目的化している。そして、売れなければ値段を下げればいい。というものである。
ある特定のエリアであれば、本当にラッキーで売れる事はあるし、売ったこともある。
だけれども、ほとんどの場合はうまくいかない。いずれ『値段を下げましょう』という話になるのだ。
大変申し訳ないがこれについては無駄だと思っている。いずれにしても売れなければ値下げする事になるのだからなるべく値下げしない方向の金額を初期に設定するべきなのである。仮に売物件の依頼を受けて半年売れないからちょっと値段を下げて みたいな事を1年以上やったことがあるが二度とやりたくないというのが本音だ。
チャレンジ価格という謎ワード
すでにお分かりかもしれないが、売主本人は高く売りたいのだ。そして高く売れるなら高く売れると正直に言いたいのも不動産屋である。
しかしながらやたら高い謎価格を否定する理由もないのでとりあえず媒介は取るわけである。
しかし、売り出してみればわかるが反響もなければ案内もない。これが1ヶ月以上続くと嫌でも気付くのだ。『売出価格が高いのではないか』と。
こうなれば値段を下げましょう→様子見→値段を下げましょう→様子見 のループになり結果売却までに8か月 当初期待していた金額の2割減程度の金額で取引されるのである。(全てがこういうわけではないが、私はこういう結果になった物件を何件も見ている。)
私はチャンレジ価格というワードがあまり好きではなく、チャレンジして売れればいいがいつまでチャレンジするんだ?という物件をいくつも見ている。
売れれば私も嬉しいが、どう頑張っても売れない金額で出せば売れないのだ。まず反響もなければ案内もない。つまりラッキーな1撃もないのである。
こういう場合はチャンレンジし続ける前に市場の動向を見た方がいいと思う。戦略を練り直すのである。
最終的に人で選ぶ
私もバイクを売る際は査定金額+営業マンの人柄で選んだ。
不動産業界においても最終的には営業マンがよかったので頼んだというのが売却のパートナーに選ぶ業者を選択した理由の1位に挙がるのをご存じだろうか?
ちなみに断っておきたいが、人で選ばれるのはうれしい反面 やはり情熱とかやる気で仕事が取れる現状はあまり好きではない。もう少し、便利なツールを各社用意してそれによって選べばいいとさえ思っている。が、現状そういうサービスはないので仕方なく人がやっているという所感である。
例えば、一括査定サービスのようなものがあるが担当する人間によって査定額はまちまちなわけだし、自動査定サービスも謎価格が算出されている。つまり、単なる集客の導線にしか過ぎないし、圧倒的な精密な価格が出たとしても売主自身は絶対に納得しないと思っている。また、私がそういうサービスを提供できるかといえばできない。
という理由から、やはり人間で選んでもらうというのがかなり有効ではあるが、更に踏み込むと売れるであろう金額をなるたけ理解して頂く事は可能である。
特に人間としてやたらに変でなければ依頼してもらえるとも思っている。
きちんと会話できる人間をパートナーに
これだけ長たらしく語ってきたが、不動産を売る時の気持ちはなんとなく自分がバイクを売った時に似ているという理由からブログを書いてみた。
やはり、査定額を提示された際にゴネ通した経験があるので、今になって思えばみんなそうなのかもしれないなという風に思える。出来る事なら高く売りたいのだ。
そのうち、査定制度が高くて半分人間に近い対応が出来るAIが出来ると思うがそれにつけても最終的には自分がいいなと思う人間に頼む事をおススメする。
まぁ、AIが人間よりもよければそちらを選んでも全然OKである。結果が良ければOK。
しかしながら、そんなイケている人間チックな(つまり呼吸感のある、臨場感のある、ましてや嘘をつく)AIは現状ないわけだから人間が対応する状況はあと数年続くはず。
不動産を売る時の話で終わりにしたいと思うのだが、まぁまぁ気の合いそうないい感じの営業を付けるのが今のところ一番いいのではないかと思う。査定金額の根拠やら、販売戦略を喜々と語ってくれる人がいいという事です。
20代の頃はどうしても売り案件が欲しいので思ってもない事を口にしていた。それこそ謎査定もしていました。が、、、特に今現在そうしてまで売り案件を取ろうとは思わないようになったし、謎査定はとにかく売主さんの時間も食えば自分の時間も食うので適当な査定が逆に出来なくなったというのが本音です。
ざっくばらんにブログという形を借りて吐露しましたが、嫌な奴だなぁと思わず何かしら参考になればいいなと思います。