住宅価格の上昇が続いてきた首都圏の不動産市場に、少しずつ変化が見え始めています。
今回注目したいのは、「日銀の利上げ」と「新築住宅価格の高止まり」という2つの要素です。
日本銀行は2026年6月、政策金利である無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標を、それまでの0.75%程度から1.0%程度へ引き上げました。日本ボランティア協会
住宅購入者にとって金利上昇は、住宅ローンの借入可能額や毎月の返済額に直結する問題です。
その一方で、新築住宅については建築費や人件費、土地価格などの上昇を背景として、価格が簡単には下がりにくい状況が続いています。
こうした環境の中、中古住宅市場では何が起きているのでしょうか。
公益財団法人東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が公表した「月例速報 Market Watch サマリーレポート 2026年8月度」から、現在の首都圏不動産市場を見ていきます。なお、このレポートは首都圏1都3県の中古マンション・中古戸建住宅について、実際の成約物件、新規登録物件、在庫物件などを集計したものです。
2026年8月、中古マンション市場に明確な変化
まず注目したいのが、首都圏の中古マンションです。
2026年8月の成約件数は3,180件。前年同月比では10.5%減少し、これで5か月連続の減少となりました。
さらに、
成約㎡単価は81.60万円で前年同月比3.8%下落、成約価格は5,129万円で同2.8%下落しました。
一方、在庫件数は48,235件で前年同月比8.2%増加しています。つまり、**「売買成立は減少し、売り出されている物件は増えている」**という状況です。
ここだけを見ると、
「ついにマンション価格が下落し始めたのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし、実際の市場はもう少し複雑です。
「売出し価格」と「成約価格」の差が広がっている
今回のデータで私たちが特に注目しているのが、売主側が設定する価格と、実際に取引が成立する価格の違いです。
2026年8月の中古マンションは、
成約価格 5,129万円
新規登録価格 6,751万円
在庫価格 6,939万円
となっています。
しかも成約価格が前年同月比2.8%下落している一方、新規登録価格は前年同月比21.5%上昇。在庫価格に至っては29.0%上昇しています。
㎡単価でも同様です。
成約㎡単価は81.60万円で前年同月比3.8%下落した一方、新規登録㎡単価は116.81万円で21.5%上昇。在庫㎡単価は119.36万円で28.4%上昇しました。
もちろん、成約物件・新規登録物件・在庫物件は同じ物件ではありませんので、単純に価格差を比較することはできません。
それでも、
「売主が期待する価格は高いままだが、実際に買主が購入する価格には調整が入り始めている」
という市場の変化は意識しておく必要がありそうです。
東京23区では76か月ぶりに中古マンション㎡単価が下落
東京都区部に限定すると、その変化はさらに鮮明です。
2026年8月の東京23区の中古マンション成約件数は1,265件。前年同月比では20.6%減少しました。
成約㎡単価は132.69万円で、前年同月比0.3%下落。
下落幅自体はわずかですが、注目すべきなのは、東京23区の㎡単価が前年同月を下回るのは2020年4月以来、76か月ぶりという点です。
長期間にわたり価格上昇が続いてきた東京23区の中古マンション市場に、一つの節目が訪れたと見ることもできます。
ただし、これをもって「東京のマンション価格が下落局面に入った」と判断するのはまだ早いでしょう。
1か月の数字だけではなく、今後数か月の成約件数、在庫件数、成約㎡単価の推移を確認する必要があります。
重要なのは、これまでのように「価格を上げても売れる」という市場から、物件によって売れ行きに差が出る市場へ移行しつつある可能性があることです。
なぜ中古マンション市場が変化しているのか
背景の一つとして考えられるのが、住宅購入者の「予算の限界」です。
ここ数年、不動産価格が上昇しても、住宅ローン金利が非常に低かったことで、購入者は比較的大きな金額を借りることができました。
ところが現在は状況が変わっています。
日本銀行は2025年12月に政策金利を0.5%程度から0.75%程度へ引き上げ、さらに2026年6月には1.0%程度へ引き上げました。日本ボランティア協会
政策金利と住宅ローン金利が完全に同じ動きをするわけではありませんが、金融機関の住宅ローン金利にも影響します。
仮に物件価格が変わらなくても、住宅ローン金利が上昇すれば毎月の返済額は増えます。
つまり購入者からすると、
「物件価格は高い、そして金利も以前より高い」
という二重の負担になります。
結果として、購入希望者が「この金額までなら買える」と判断する上限価格が、以前ほど伸びなくなる可能性があります。
この影響が最初に現れやすいのが、価格の高い東京23区のマンション市場でしょう。
それでも新築住宅の価格は簡単には下がらない
一方で、不動産市場全体を考えるうえで忘れてはいけないのが新築住宅です。
不動産経済研究所では2026年も継続して首都圏新築マンション市場を調査しており、同研究所の2026年上期の市場動向でも、供給戸数の少なさやマンション価格高騰が引き続き市場の大きなテーマとなっています。不動産経済
新築住宅価格は中古住宅とは価格形成の仕組みが異なります。
土地の取得費だけではなく、建築資材、設備、人件費、物流費などさまざまなコストを積み上げて販売価格が決まります。
そのため、購入者の購買力が低下したからといって、事業者が簡単に販売価格を引き下げられるわけではありません。
価格を下げる代わりに、
専有面積を小さくする、供給戸数を調整する、販売時期を変更する、立地を厳選するといった方法が取られることもあります。
したがって今後、「金利が上がったから新築住宅価格もすぐ下がる」と考えるのは少し単純すぎるでしょう。
むしろ新築価格が高止まりすることで、相対的に中古住宅を検討する購入者が増える可能性があります。
ここに現在の市場の難しさがあります。
中古戸建てはマンションと違う動きをしている
さらに興味深いのが、中古マンションと中古戸建ての違いです。
2026年8月の首都圏中古戸建住宅は、成約件数が1,641件で前年同月比1.9%増加。
成約価格も3,960万円で前年同月比1.7%上昇し、8か月連続の上昇となりました。
一方、在庫件数は23,277件で前年同月比1.2%減少し、7か月連続の減少です。
マンションが、
「成約件数減少・価格下落・在庫増加」
となっているのに対して、戸建ては、
「成約件数増加・価格上昇・在庫減少」
です。
同じ住宅市場でもかなり異なる動きになっています。
東京23区の中古戸建てに限ると、2026年8月の平均成約価格は7,815万円。前年同月比4.4%上昇し、5か月連続の上昇となりました。
ここから考えられるのが、マンション価格上昇による購入需要の変化です。
例えば7,000万円台、8,000万円台の中古マンションを検討している世帯にとって、同じ予算帯で戸建住宅も比較対象になるケースがあります。
新築マンションの価格が高止まりし、中古マンション価格も高水準となった結果、「マンションだけでなく戸建ても含めて探す」購入者が増えている可能性があります。
これからは「不動産市場全体」ではなく物件ごとに見る必要がある
今後、不動産を売却する方にも購入する方にも重要になるのが、
「不動産価格は上がっているのか、下がっているのか」
という二択だけで市場を判断しないことです。
今回の8月データだけでも、
東京23区中古マンションは成約件数が20.6%減少。
一方で東京23区中古戸建ての成約価格は4.4%上昇。
埼玉県の中古マンション成約件数は5.4%増加し、㎡単価も2.0%上昇しています。
つまり、地域や物件種別によって市場の動きがかなり異なっています。
さらに同じ東京23区でも、駅距離、築年数、管理状態、マンションの規模、間取り、土地の形状などによって売れ行きには大きな差があります。
これからの不動産市場では、平均価格だけを見るのではなく、**「その物件と競合する物件が、実際にいくらで成約しているのか」**を見ることがこれまで以上に重要になります。
売却を考えている方は「売出し価格」だけを見ない
特に注意していただきたいのが、不動産を売却する場合です。
現在の市場では、インターネット上に掲載されている売出し物件を見ると、
「自分のマンションもこのくらいで売れるのではないか」
と考えやすい状況になっています。
しかし、レインズの8月データが示しているように、中古マンションでは在庫価格が上昇している一方、実際の成約価格は下落しています。
売出し価格=売れる価格ではありません。
高値で売り出すこと自体が悪いわけではありませんが、市場価格から離れすぎると販売期間が長期化します。
その間に新しい競合物件が出てきたり、価格変更を繰り返すことで買主から「長期間売れていない物件」と認識されたりすることもあります。
今後は、現在売り出されている物件だけではなく、直近3か月から6か月程度の成約事例を確認しながら価格を決めることがより重要になるでしょう。
購入する方にとっては「待てば安くなる」とも限らない
一方、購入者側も判断が難しいところです。
中古マンション価格に調整の兆候が出ているのであれば、
「もう少し待てばもっと安くなるのではないか」
と考える方もいるでしょう。
もちろんその可能性はあります。
しかし、不動産購入では価格だけでなく金利も考える必要があります。
仮に物件価格が数%下落したとしても、その間に住宅ローン金利が上昇すれば、総返済額では必ずしも有利になるとは限りません。
また、新築住宅の価格が高止まりすれば、中古住宅への需要が一定程度維持される可能性もあります。
そのため、「相場が下がるまで待つ」という考え方よりも、
購入価格・自己資金・住宅ローン金利・毎月返済額をセットで考える
ことをおすすめします。
2026年秋以降の不動産市場で注目したい3つの数字
今後、私たちが特に注目しているのは、
中古マンションの成約件数、在庫件数、そして成約㎡単価です。
2026年8月時点では、成約件数が5か月連続減少、在庫件数が6か月連続増加、成約㎡単価が4か月連続下落という状態になっています。
この傾向が秋以降も続くのか。
それとも新築価格の高止まりによって中古住宅に再び需要が向かうのか。
そして日銀の金融政策と住宅ローン金利が購入者の予算にどこまで影響するのか。
この3点が今後の住宅市場を見るうえで大きなポイントになると考えています。
まとめ|「価格上昇一辺倒」から選別される市場へ
2026年8月のレインズデータを見る限り、首都圏の不動産市場は一つの転換点に差しかかっているように見えます。
特に中古マンションでは、在庫が増え、成約件数が減り、成約価格にも調整が見られるようになりました。
ただし、これを単純な「不動産価格の下落」と捉えるべきではありません。
新築住宅価格は依然として高い水準にあり、中古戸建てでは成約価格の上昇が続いています。
日銀の利上げによって住宅ローンを利用する購入者の予算にはこれまで以上に制約がかかる一方、新築住宅の供給コストが高いままであれば、住宅価格そのものも簡単には下がりません。
その結果、これから起こりそうなのは「すべての不動産が一斉に下落する市場」というより、
価格と物件の内容が見合っている不動産は売れ、割高感のある不動産は売却に時間がかかるという、物件ごとの選別が強まる市場
ではないでしょうか。
売却する場合には「周辺でいくらで売り出されているか」だけではなく、「実際にいくらで成約しているか」を確認すること。
購入する場合には物件価格だけではなく、住宅ローン金利を含めた総額で判断すること。
今後の不動産市場では、この2点がこれまで以上に重要になってきます。
エクセリオン東京では、東京23区を中心に、実際の成約事例や現在の販売状況を確認しながら、不動産の売却・購入についてご相談を承っています。
「今売却するといくらくらいになるのか」「金利が上がっている今、購入してもよいのか」など、具体的な物件について検討されている方はお気軽にご相談ください。
出典:公益財団法人 東日本不動産流通機構「月例速報 Market Watch サマリーレポート 2026年8月度」
同資料は2026年9月10日に公表された、首都圏1都3県等の不動産流通市場に関する月次資料です。
※本記事に記載した市場分析・見通しは、公開資料をもとに株式会社エクセリオン東京が独自に考察したものであり、将来の不動産価格・金利等を保証するものではありません。

